大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所丸亀支部 昭和51年(ワ)82号 判決 1978年1月26日

原告

則包虎五郎

ほか四名

被告

大谷勇

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告則包虎五郎に対し金五三四万五〇八一円、原告則包直樹、原告曾我真佐子、原告平松和子及び原告則包勝廣に対し各金一九七万八〇三三円並びに右各金員に対する昭和五〇年八月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決の主文一項は仮りに執行することができる。

事実

第一  原告らは主文一、二項同旨の判決及び仮執行宣言を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。

一  訴外亡則包武子(以下「武子」という)昭和五〇年八月二六日午前九時五五分ごろ、被告義達運転の普通乗用自動車(六香す六五三八)(以下「甲車」という)に同乗し、西から東に向けて走行中、香川県三豊郡三野町大字下高瀬九九二番地一交差点(以下「本件交差点」という)において、北から南に走行してきた被告小亀運転の小型貨物自動車(香四四せ一二三七)(以下「乙車」という)と衝突し、脳内出血、内臓破裂の傷害により同日死亡した(以下「本件事故」という)。

二  本件事故は、被告小亀、同義達の前方不注視及び交差点進入の際の減速義務違反の過失により生じたものである。

三  被告大谷は同小亀の雇用主であり、本件事故は被告大谷の事業の執行中に生じたものであり、かつ、同被告は乙車の保有者であり本件事故は乙車の運行によつて生じたものである。

四  よつて、被告小亀、同義達は民法七〇九条、同大谷は同法七一五条及び自賠法三条により、本件事故による損害賠償責任を有する。

五  原告虎五郎は武子の夫であり、その余の原告らは武子の子である。

六  本件事故による損害は次のとおりである。

(一)  逸失利益

武子(死亡時五八歳)は主婦であるかたわら和服仕立を業とし、年間一七一万七九〇〇円以上の収入を得ており、六七歳まで稼働可能のものであるから、生活費三分の一を控除しても同人の逸失利益は八三三万五二五〇円を下らない(一、七一七、九〇〇×2÷3×七・二七八=八、三三五、二五〇)。

右額の損害賠償請求権は原告虎五郎がその三分の一の二七七万八四一六円を、その余の原告らが一五分の二(三分の二の五分の一、なお被告義達も武子の子である)宛の各一一一万一三六六円を各相続した(円以下切捨)。

(二)  慰謝料

武子は夫の原告虎五郎が職業に恵まれなかつたこともあり、和裁の特技により同原告以上の収入を挙げていて一家の主柱に準ずる働きがあつたので、武子死亡による死者本人の慰謝料額は一五〇万円が相当であり、同額の請求権を原告虎五郎が三分の一の五〇万円、その余の原告らが一五分の二の各二〇万円を各相続した。

原告らに対する慰謝料としては、原告虎五郎につき二〇〇万円、その余の原告らにつき各八〇万円が相当である。

右合計額は原告虎五郎二五〇万円、その余の原告ら各一〇〇万円となる。

(三)  葬儀費

原告虎五郎は武子の葬儀費として四〇万円以上を支出したが、うち四〇万円を請求する。

(四)  弁済の受領

原告らは自賠責保険から仮渡金として八六万六六六七円の支払を受けたので、原告虎五郎はうち三三万三三三五円、その余の原告らは各一三万三三三三円を各弁済の一部に充当した。

(五)  右(一)ないし(三)の合計額より(四)を差引くと、原告虎五郎は五三四万五〇八一円、その余の原告らは各一九七万八〇三三円となる。

七  よつて、原告らは被告ら各自に対し、右各金員及びこれに対する武子死亡の翌日である昭和五〇年八月二七日から完済まで民法所定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二  被告らは「請求棄却。訴訟費用原告負担。」の判決を求め、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

(被告大谷及び同小亀の答弁)

一  請求の原因事実一、三、五項は認める。

二  同二項中、被告小亀の過失は否認。

三  同四項は争う。

四  同六項中(四)は認め、その余は不知。

五  同七項は争う。

(被告義達の答弁)

一  請求の原因事実一、三、五項は認める。

二  同二項中、被告義達の過失は認めるが、その余は不知。

三  同四項中、被告義達に関する部分は認めるが、その余は不知。

四  同六項中(四)は認め、その余は不知。

第三  被告大谷及び同小亀の抗弁

一  武子は被告義達の実母であり、同被告の過失はいわゆる被害者側の過失として、原告らの損害につき少くとも五割程度の過失相殺がなされるべきである。

(一)  すなわち、被告義達は原告主張の日時場所において同被告保有車両たる甲車を運転し、本件交差点にさしかかる際、左方道路から進行して来る被告小亀運転の乙車を認めたのであるから、被告義達は右交差点手前で一時停止又は徐行して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、自車が先に右交差点を通過できると軽信し時速四五キロメートルで漫然と進行した過失により本件事故を惹起したものであり、被告義達と被告小亀の過失割合は七対三というべきである。

(二)  他方、武子は被告義達の実母であり、武子が甲車に同乗したいきさつは、武子の希望により同人がやまや呉服店の着物の展示会へ行くために被告義達に依頼して同乗させてもらつたものである。

しかして、甲車の運行の利益、支配はむしろ武子のために存していると言つても過言でない。

右のごとき事情のもとにあつては、被告義達の前記過失はまさに武子自身の過失であると評価すべきである。

そして、原告らは一応実の兄弟である被告義達に対して損害賠償請求訴訟を提起しているものの、原告らと同被告間には原告らの主張する損害につき真実その損害を填補清算する意図のないことは明白である。かゝる事情のもとにおいては、同被告の過失は武子の過失というべきである。

二  仮りに右主張が認容されないとしても、いわゆる共同不法行為によつて被害者に生じた損害とは、被告義達との関係で好意同乗その他によつて減額された損害をもつて被告小亀らに対する関係でも損害というべきである。

従つて、仮りに原告ら主張の損害が認定されたとしても、被告義達との関係では少くとも五割程度の好意同乗による減額がなされるべきであるから、右五割程度減額された損害が被告小亀らに請求できる損害というべきである。

第四  抗弁に対する原告らの答弁等

一  抗弁一項の事実中、武子と被告義達との身分関係及び本件事故につき同被告にも過失のあることは認めるが、その余は争う。武子は同被告の母であるが、同被告は本件事故当時佐野正、栄夫妻と養子縁組(本訴提起後離縁)をして生計を別にしていたものであり、法律上の義務はともかく事実上は扶養被扶養の関係及び看護監督等の一体関係もなかつたものであるから、同被告の過失を武子の過失とはなしえないものである。

二  抗弁二項の事実中、本件事故当時武子が甲車に好意同乗していたことは認めるが、その余は争う。被告義達は今までに交通事故の前歴はなく、同乗に当つて不安となる事情は全く無かつたのであり、本件事故も一瞬の間に発生したもので、武子がこれを防止しうる立場にもなかつたのであるから、好意同乗を理由に減額をなすべき場合に当らない。まして、武子と被告義達間に親子関係があるという偶然の事情により、被告大谷及び同小亀は被告義達の相続分に相当する部分の損害賠償を免れるという反射的利益を得ているのであるから、これ以上の減額は公平の見地よりしても不必要である(自賠責査定要綱親族間事故規定の「被害者と保有者との関係が夫婦または同一生計に属する親子もしくは兄弟姉妹であるときは慰謝料について減額を行なう」にも該らないものである)。

第五  〔証拠関係略〕

理由

一  原告らの請求の原因一、三、五項の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故につき被告義達に過失のあつたことは同被告においてこれを自白するところであるが、この事実のほか、前記事実、成立に争いない甲七、九、一〇、一三、一九、三九号証に被告義達の供述を総合すると、次のとおり認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(一)  被告義達は自動車を運転して時々本件交差点を通過することがあり、その存在、状況等をよく知つていたところ、本件事故当日も甲車を運転し本件交差点を目指して西から東に向け時速約四五粁で進行中、折から同交差点を目指して交差道路(交差道路の方が交通量は少ないが幅員は広い、もつとも、明らかに広いとまではいい難い)を左方から(北から南に向つて)進行してくる乙車を認めたものであるが、右交差点は交通整理が行なわれておらず、かつ、右交差点の北方約五〇米の地点に人家が存在するため、左方に対する見とおしが必ずしもよくなかつたものであるから、同被告としては、右交差点に入り、かつ、同交差点内を通行するときは、乙車の動静に注意するとともに、少くとも甲車を一たん減速する等して乙車の進行妨害をしないような安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務(道交法三六条一項、四項、四二条一号参照)があるにも拘らず、甲車が乙車より先に同交差点を通過できるものと即断軽信し漫然同速度のまま進行した過失により、同交差点直前に至つて初めて乙車の接近に気付いたが、その時はもはや急制動の措置をとるいとまもなく、同交差点中心部において甲車左側部をして乙車前部の衝突を受けしめたものである。

(二)  他方、被告小亀は本件事故の少し前に乙車を運転して本件交差点を通過したもので、その帰途に再び右交差点を通過すべく同交差点を目指して北から南に向けて時速約五〇粁で進行していたものであるが、同被告においても、本件のように右方の見とおしが必ずしもよくない交差点に入ろうとするときは、交差道路を通行する車両等に特に注意し、一たん乙車を減速する等してできる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務(道交法三六条四項、四二条一号参照)があるにも拘らず、同交差点の手前約一四・二米の地点に至るまで、右方道路(交差道路)から同交差点に進入する車両の有無、動静等の確認を怠つたまま漫然同速度で進行した過失により、右地点において、甲車が時速約四五粁で右方道路から同交差点に進入しようとしていることに初めて気付き、危険を感じて急制動の措置をとつたが間に合わず、前記のように同交差点中心部において乙車前部を甲車左側部に衝突させたものである。

(三)  右によれば、本件事故は被告義達の過失と同小亀の過失との競合(共同不法行為)により発生したものというべきである。

三  以上によれば、被告小亀及び同義達は民法七〇九条により、同大谷は同法七一五条、自賠法三条により、本件事故により生じた損害を賠償する責任を負うべきものである。

四  本件事故と相当因果関係のある武子の損害

(一)  逸失利益

前記当事者間に争いない原告虎五郎が武子の夫である事実のほか、成立に争いない甲一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲五号証、証人石井正清の証言により真正に成立したと認められる甲六号証、同証人の証言及び原告虎五郎の供述を総合すると、武子は本件事故当時五八歳であり、原告虎五郎(同原告はボイラーマンとして勤務し月給約七万円を得ていた)の妻として主婦の勤めを果すかたわら、和服仕立の特技を生かして昭和二七年ごろより有限会社やまや呉服店等より和服仕立を請負い、急ぎの仕事でも徹夜をして仕上げる程の能力を有していたため、本件事故前の一か年間に同呉服店から受領した右請負代金だけで合計一七一万七九五六円にも達しており、夫の原告虎五郎より高収入をあげていたものであるが、右請負に際しての必要経費としては糸代として請負代金の約三%を要するほかアイロン、机、針を要する程度であつたことが認められるところ、主婦としての稼働の点も考慮すると、武子は年間少くとも原告ら主張の一七一万七九〇〇円の純収入を挙げていたというべく、本件事故がなければ同女は更に九年間は稼働可能であつたとみられるので、同女の生活費を三分の一とみて年毎に中間利息を控除する新ホフマン式計算法により計算すると、同女の逸失利益の本件事故日現在の現価は八三三万五二五〇円(円未満切捨、以下同じ)となる。

(計算式一、七一七、九〇〇円×二÷三×七・二七八)

(二)  慰謝料

前記認定事実のほか本件諸般の事情を考慮するときは、武子の精神的苦痛を慰謝するに足る金額としては一五〇万円をもつて相当と認める。

(三)  右合計額は九八三万五二五〇円となる。

五  本件事故と相当因果関係にある原告ら固有の損害

(一)  慰謝料

前記認定事実のほか本件諸般の事情を考慮するときは、武子の夫である原告虎五郎の精神的苦痛を慰謝するに足る金額としては二〇〇万円、武子の子であるその余の原告らについては各八〇万円をもつて相当と認める。

(二)  葬儀費

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲二〇ないし三七号証及び原告虎五郎の証言によれば、原告虎五郎は武子の葬儀費として同原告主張のとおり四〇万円以上を支出したことが認められるところ、同原告主張の四〇万円の限度で相当因果関係ある損害としてこれを認める。

六  次に、被告大谷及び同小亀の抗弁一、二について判断する。

(一)  まず、前記二認定によれば、本件事故は被告小亀の過失のほか被告義達の過失が競合して発生したものであり、かつ、右両者の過失割合は被告小亀が三割、同義達が七割であるとみるのが相当である。

(二)  次に、武子が被告義達の実母であること及び本件事故当時武子が甲車に好意同乗していたことは当事者間に争いがなく、原告らと武子との身分関係についても前記のように当事者間に争いがなく、その他、前出甲一、一〇号証、成立に争いない甲一四、一五号証、原告虎五郎及び被告義達の各供述を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被告義達(本件事故当時成年者)は原告虎五郎と武子間の二男であると共にその余の原告ら(同じくいずれも成年者)の兄弟であるが、その余の原告らはいずれも早く両親と別居し、世帯、生計も別にしたため、同被告のみが原告虎五郎、武子夫婦と同居していたところ、同被告は昭和五〇年一月一八日佐野正、栄夫妻の養子となり同夫妻の娘五月と結婚し同人ら方で同居するに至り、原告虎五郎、武子夫婦とは世帯、生計も別にするに至つた。(なお、同被告は本件事故後で本訴提起を受けた後の昭和五一年一〇月一五日離婚離縁し、原告虎五郎方へ戻つた。)

2  佐野方と原告虎五郎、武子方(実家)とは自動車で一〇分余の近距離にあつたため、同被告は、佐野方へむこ養子に行つた後も、仕事先よりの帰途等に実家へ時々遊びに寄つていた。そして、同被告は時折武子に小遣銭を渡すこともあつた。

3  同被告は本件事故の前日、武子より「明日有限会社やまや呉服店で展示会があるから乗せて行つてくれ」との依頼を受けて承諾し、当日実家から自動車で約一〇分の距離にある同呉服店まで同女を送り迎えするべく、甲車を運転してまず同女を実家まで迎えに行き同女を同乗させて同呉服店へ行く途中本件事故を起したものである。

4  甲車は修理業者ホンダシヨツプ田中の所有車である。そして、同被告が本件事故当時甲車を運転していた理由は、同被告所有の自動車(以下「自車」という。)につき車検を受ける間、代車として甲車を右田中より本件事故の四日くらい前に借受けていたためであり、同被告が甲車に武子を同乗させたのは本件事故の時が初めてであつたが、その時まで自車に同女を同乗させたことは、同女が親戚へ行く際に時々、また、右呉服店へ行く際にも一、二回あつた。

5  同被告が自車を取得したのは結婚後それまで有していた自動車を手離すことによる買換えの方法によつたものであるが、右買換えの際同被告は武子に対し「少し融通してもらえないか」と資金融通方を依頼し、買換えに要する代金二三万円中一〇万円につき武子より融通を受け、その後内金二万円はすでに返済したものの、残金については事実上返済しなくともよいことになつていた。

6  武子の相続人でもある原告らは、被告大谷及び同小亀に対してのみならず被告義達に対しても、本件損害賠償請求訴訟を提起しこれを維持している。

(三)  そこで、前記抗弁一について判断するに、右(二)1ないし6の認定事実を総合しても、未だ本件事故当時被告義達が武子及び原告らと身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にあつたということはできず、他にこれを認むべき証拠もないので、武子及び原告らの被告大谷及び同小亀に対する損害賠償請求権について、被告義達の過失を被害者側の過失としてしんしやくすべきものということはできない。右抗弁一は失当である。

(四)  また、前記抗弁二につき判断するに、後記のように、武子の被告義達に対する損害賠償請求権については好意同乗を理由に慰藉料額に関し減額をなすべきものであるけれども、武子(及び原告ら)の被告大谷及び同小亀に対する損害賠償請求権についても、武子の好意同乗をしんしやくして損害額の減額をなすべきとの見解は当裁判所の採らないところである。けだし、単純なる好意同乗による減額は、好意同乗者の被同乗者側の者(好意同乗車の運転者、その使用者、保有者等)に対する(慰謝料)請求権についてのみ考うべきものと思料されるからである。右抗弁二も失当である。

七  なお、前記六(二)掲記の証拠によれば同六(二)1ないし5の事実が認定されるところ、右認定にかかる武子の被告義達運転の甲車への好意同乗の事実及びその態様等に鑑みるときは、武子の同被告に対する損害賠償請求権のうち慰謝料請求権についてだけは、好意同乗を理由とする減額をなすべきであり、前記認定の慰謝料額の五割を減じた額についてのみ請求しうるものというべきである。

ちなみに、武子及び原告らの同被告に対する慰謝料請求権について、親子又は兄弟の関係にあることを理由とする減額をなすべきか否かの点に関しては、前記六(二)1の認定事実によれば、未だ右減額をなすべきではないというべきである。

八  以上によれば、前記のように原告虎五郎は武子の夫であり、またその余の原告ら及び被告義達は武子の子であり、特段の主張立証もないので、法定相続分に従い、原告虎五郎は武子の権利の三分の一、その余の原告らは同じく各一五分の二の各請求権を各相続により取得したものというべきであるから、原告虎五郎は、被告大谷及び同小亀に対しては武子の損害額合計九八三万五二五〇円の三分の一に当る三二七万八四一六円と同原告固有の損害額合計二四〇万円の合計額五六七万八四一六円の、被告義達に対しては右より武子の慰謝料の五割の相続分二五万円を減額した五四二万八四一六円の、その余の原告らは、被告大谷及び同小亀に対しては武子の損害額合計の各一五分の二に当る一三一万一三六六円と同原告ら固有の損害額各八〇万円の合計額各二一一万一三六六円の、被告義達に対しては右より武子の慰謝料の五割の相続分一〇万円を減額した各二〇一万一三六六円の、各請求権を取得したものというべきである。

九  ところで、原告らの請求の原因六(四)の事実は当事者間に争いがないから、結局、原告虎五郎の被告大谷及び同小亀に対する請求権は前記の額から弁済のあつた三三万三三三五円を控除した五三四万五〇八一円、その余の原告らの同被告両名に対する請求権は前記の額から弁済のあつた一三万三三三三円を控除した各一九七万八〇三三円となる。そして、被告らの原告らに対する賠償債務は、債務額の一番少ない被告義達の負担する範囲でいわゆる不真正連帯債務の関係にあり、本件のように被告小亀と並んで多額を負担する被告大谷側の弁済があり、しかも、右弁済額が両者(被告義達と同大谷)の負担額の差額すなわち右両者のうち被告大谷だけが負担する額を超える場合は、被告義達の債務もその超過額だけ消滅すると解するのが相当である。けだし、各不真正連帯債務者の負担する債務額が異なるときは、最多債務額について未払額がある限り、各債務者は自己の負担する債務額の範囲内でこれを弁済する責任を免れないと解すべきだからである。

そうすると、原告虎五郎の被告義達に対する請求権も被告大谷及び同小亀分と同じく五三四万五〇八一円となり、その余の原告らの被告義達に対する請求権も被告大谷及び同小亀分と同じく各一九七万八〇三三円となる。

一〇  以上の次第で、原告虎五郎は被告三名に対して各五三四万五〇八一円、その余の原告らは被告三名に対して各一九七万八〇三三円と右各金員に対する本件事故日の後である昭和五〇年八月二七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を請求しうるものというべきであるので、原告らの本訴請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、民訴法八九条、九三条、一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川正孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例